Early Birds Newsletter - vol.1

Living with Art

アートとあなた

あらゆる変化を受け入れた2020年。自宅にいる時間が自然と増え、パンデミックによる混沌とした毎日の中でもお茶を淹れるちょっとしたひとときや植物を愛でる時間、家の中のものをじっくり見直す時間など自分を癒すものごとが身近にある幸せを感じました。そして、アートを眺める時間も自然と増えていることにも気づきました。いつもその場所にあったけれど、ちょっと動かしてみようかなとかそういえばこのアートを手に入れたあの時は・・なんて思いを巡らせてみたり。

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「空間の中にあるアートは人にポジティブなマインドをプラスする役割であってほしい」との一言はアーリーバーズチームとの会話の中から。現在のような変化に適応していくことが求められる状況では特にアートがもたらす機能として求められているものかもしれません。落ち着かない日々の中でも人と繋がるコミュニケーションの時間はポジティブなエネルギーを交換し合うきっかけになります。同じように、空間にあるアートも作品を通してアーティストのエネルギーが入り、その空間を利用する人のエネルギーがもたらされ、反響し融合することで空間に新たな価値を創造できるのではないでしょうか。



 

仕事の合間に入ったカフェでふと何気なく壁に掛かった写真を眺めていたら、頭の中で思い巡らせていた物事をとても冷静に受け止められた経験があります。写真は植物や人物、風景など対象物の魅力をアーティスト自身のフィルターを通して発信されるもの。その切り取られたフレームの世界から生命力を感じたり、感情の機微や表現方法に触れることで思いがけずインスピレーションがもたらされたのです。例えば、堂々巡りしていた考え事は難しく考えすぎていることに気付いたり、作品の世界観から新たなアイディアを創造することができたり。アートが空間の彩りということ以上に身体とマインドにポジティブなエネルギーをもたらすことができれば、思考の枠組みや行動の可能性を広げ、自分自身が心地良く過ごすためのヒントとなります。



 

「やっぱり機械で人の手が入らず作られたものとアーティストの感性が宿る魂がこもったものとの違いは大きいと思います。例えば、見てもみても飽きないとか毎回見るたびに何か新しい発見があるとか。さらには、それをどう置くか、どこに置くかでスペースに新たな味わいや気分、エネルギーのリズムが生まれ、いっそう意義のある空間を創造することに繋がります。」

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人はアートに触れるとき自然と感覚がマインドフルになる





アートを眺めているとき、自然と意識が作品に集中し、マインド(脳にある知性や意識)が静かで冷静になっていることに気づきます。常に忙しく動く思考から一旦距離を置き、たった今目の前にある「経験」と対峙している状態です。

このように意識的に自分の感覚を研ぎ澄まし、ただその作品を受け入れるだけの時間を日常的に持つことで目の前の起こっていることに注意を向ける(マインドフルになる)きっかけとなり、毎日の一瞬一瞬を大切に捉え丁寧に積み重ねていくことにつながります。すると、私たちの生き方そのものが、人とのコミュニケーションや社会で起きていることに対しても、情報に惑わされずに自分の軸で考えられるようになります。マインドフルに生活するということは、自分の振る舞いを客観的に捉え微細な意識や感覚を持って行動していくこと。
 

「10年前に選んだものと今現在選ぶものは違ってて当然。時代や社会は常に移り変わり、そもそも私たち自身が変化していく。今、この瞬間の自分の感覚にストレートに共感するものを選んだり、場所を変えたりして、自分に必要な感覚をアートで取り入れられるようになると良いですよね」。 そしてもちろん買ってきたアートでなければいけない訳ではありません。時には自分で描いたもの。窓であれば景色もアートになります。自分が幼い頃に作った思い入れのあるものや何千万とするアートでも自分が五感で共感できるものがあれば、感覚的にもコンセプト的にも、奥行きのある空間へと進化していきます。奥行きのある空間は、私たちを自分たちの中にある奥深くの感覚を呼び起こし、もの、こと、人に対して丁寧な生活へと導いてくれます。

 

 

アートで、空間と人をポジティブに



 

「もちろん、静かで少しダークな雰囲気を纏う作風や、批判的メッセージの強いアートで素晴らしいものもたくさんあります。ただ、今の私個人的には、気持ちを前向きに切り替えられるもの、リラックス効果のあるものを選んでいる傾向がありますね。パンデミックや時代の流れの中で、"ポジティブ思考"が空間の効果としてプラスしたい要素だから。」 アーティストと感覚の上で繋がることができ、さらに自分自身と向き合うきっかけになることは、アートの大きな力です。

上の写真、通路の右側にあるのは Rachel Sussman というアーティストの作品をオフィス空間に取り入れた時のもの。彼女は自身のプロジェクトとして何千年と生き続ける世界最古の植物を撮影し続けている東海岸に住むフォトグラファーです。植物はチリのアタカマ砂漠に2000年以上生存しているもの。芸術や化学といったものとは異なり、植物という生命体が想像を越える年月を経て培われた計り知れないエネルギーを考えれば、人間の30年、50年なんてすごくちっぽけなものにも思えてきます。また同時に、人間は優れた頭脳や言語を扱う能力があるがゆえ、この世界を人間が生きる世界の中だけで主観的に完結してしまっていないかということにも気付かされます。この確かな生命体が人間の一生とは比べものにならない年月を生き続けている。そのシンプルな事実は想像以上に壮大で力強いメッセージです。たった今社会や身のまわりで起こっていることをはじめ、どんな事象を目の当たりにしても自分の軸で真っ直ぐ生き抜く大切さ、その美しさを同時に教えてくれます。

 




アートと私たち:アートのもつエネルギーやインスピレーションを感じながら過ごす

ことで、より多くの時間を自分自身とつながり、ポジティブな気付きを持って1日を過ごせるようになると、その1日が積み重なりやがて私たちの一生となります。また結果的に人との関わり方、接し方が変わり、さらには社会全体をもポジティブに変えていくでしょう。アートと私たちの関係は、物や形といった物質的な美しさだけでなく、目に見えないけれどもっと本質的で大切なもの、私自身や他の誰かをつなげてインスパイアしていく、そんな良いエネルギーの連鎖なのだと思います。



Text & Interview by Mayuko Furukawa

 

トップ写真左:THE ARTISAN TABLE DEAN & DELUCA  /  2017'

樹齢4000年のカリフォルニア、デスバレーの木 ”メトセラ。空間コンセプトを「生命力」とし、空間ディレクションとアートセレクト、小物スタイリングを担当。力強く根をはり生き抜くエネルギーを食卓に届け、食べること=生命力を高める という自然の溢れるエネルギーを空間に取り入れました。

 

トップ写真右:THE STORE by C'  /  2018'

ファッションブティックのためにセレクトしたジョージ ナカシマのベンチとチェアは、ガラスブロックとコンクリートで直線的に構成された空間に、木の持つ安らぎと生きる力を置き、職人技の人の手(創造)と自然とのコネクションツールとして。ゴールドのブロンズオブジェはAlma Allen の Life of object。コンセプト通り、生命の美しさを、人の美しさ・ファッションブティックの美しさと共鳴するように取り入れました。

 

中段写真:Under Design Osaka  / 2019'

オフィスビルの内装を、アートを取り入れインテリアを一新。この正面カウンターを進む壁にかかる写真は、アメリカ東海岸を拠点にしたRachel Sussmanによるもの。彼女のアートブック『The Oldest Living Things in The World』よりチリのアタカマ砂漠に2000年以上生きているLlaretaという植物の写真をオフィス空間のエネルギーの源に。ガラスの会議室からふと目を上げると目線の先に見える大きな写真は仕事中の私たちに、冷静でマインドフルな瞬間を運びます。「Inhale the future, Exhale the past」のグラフィックはこのエリアのためにEBがオリジナルで製作。作品の意味合いをさらに空間に反響させる役割。